◯ 慢性疲労症候群
慢性疲労症候群は、6ヶ月以上にわたり重度の疲労感や倦怠感を主訴とし、その他に微熱や頭痛、咽頭痛、筋肉痛、リンパ節の腫脹及び不眠や脱力感、集中力の低下、抑うつ状態などの精神状態を伴う、病状が非常に多彩な症候群である。
また、血液検査では異常がなく、ウイルスや免疫異常・ストレスなどが関係しているのではないかといわれているがはっきりとした原因が分からず、患者本人としては周囲から“怠けている・さぼっている”と受け取られ、大変つらい思いをしているのが現状である。
○ 診断基準は?
1988年の米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)による診断基準は以下の通りである。
1)大クライテリア
①持続する、あるいは再発性の疲労感・易疲労性
a)臥床でも改善しない
b)平均日常活動が50%以上制限されるほど激しい
②他の慢性疾患が除外される(既往の精神疾患を含む)
慢性疲労
2)小クライテリア
①自覚症状あるいは病歴上の基準
以下の6ヶ月以上にわたる持続性あるいは再発性の症状があるかどうか。
・微熱
・咽頭痛
・頚部あるいは腋窩の有痛性リンパ節腫脹
・全身の筋力低下
・筋肉痛
・以前には耐えられた仕事をした後に1日以上続く全身倦怠感
・新しく始まった頭痛
・移動性非炎症性関節痛
・神経精神症状
a)羞明b)一過性暗点c)健忘d)易刺激性e)昏迷f)思考力低下g)集中力低下h)抑うつ
・睡眠障害
・症状の急性あるいは亜急性の発症(患者の申し出による)
②身体所見上の基準少なくとも1ヶ月の間隔をおいて2回以上、医師によって認められること。
・微熱
・非滲出性咽頭炎
・頚部あるいは腋窩リンパ節の触知あるいは圧痛(直径2cm以下)
3)診断
大クライテリア2項目+自覚症状6項目以上+身体所見2項目以上、あるいは大クライテリア2項目+自覚症状8項目以上の条件が満たされた症例は慢性疲労症候群と診断できる。
○ 東洋医学的にはどのように考えるの?
それでは、この慢性疲労症候群を東洋医学ではどのように考えているのか。大まかに次の3つに分けられます。“肝気鬱滞”“気血両虚”“脾腎虚”。
まずは肝気鬱滞。東洋医学でみる肝の性質は、何の制約も受けず自由にのびのびとしてやるのが良いとされているが、現代社会においてはそれがなかなか難しく、皆ストレスを感じながら生活している。やがて、その不満やイライラ、精神的緊張などのストレスがうまく発散されずに内にこもると、肝に負担がかかり、肝気にうっ滞が生じる。
そうすると「気」や「血」のめぐりが悪くなり、食欲不振や憂うつ感・情緒不安定・関節痛などの症状がでることが多い。
次に気血両虚。これは、長期にわたる精神的な緊張、睡眠不足などにより「気」や「血」そのものが不足し、いわゆる“虚”の状態になると、重度の不眠や疲労感、倦怠感、無気力感などの症状が出る。
最後に脾腎虚。これは脾や腎の陽気が不足することにより生じる。 胃腸や腎の機能が弱り、うまく陽気が産生されないと体内のエネルギー代謝が低下し、体力が減退、そうして何もする気が起きない、だるいなどといった症状が出やすい。
○ 効果的なツボは?
・膈兪(かくゆ)・・・第7・8胸椎棘突起間の外1寸5分の所。別名、血会穴(けつえけつ)と呼ばれ、血の巡りを良くしたり、血液の疾患に用いられたりする。
・肝兪(かんゆ)・・・第9・10胸椎棘突起間の外1寸5分の所。肝気うっ滞や肝の気の巡りを良くするのに使う。
・脾兪(ひゆ)・・・第11・12胸椎棘突起間の外1寸5分の所。食欲不振や胃腸機能を高める時に使う。
・腎兪(じんゆ)・・・第2・3腰椎棘突起間の外1寸5分の所。他に、腰痛や泌尿器系疾患にも効果あり。
・曲池(きょくち)・・・肘を曲げた時にできる大きなしわの端。気の流れや自律神経の働きを調節する。
・太衝(たいしょう)・・・足の甲の第1・2中足骨底間の前、陥凹部に取る。肝経の原穴。
・足三里(あしさんり)・・・膝下3寸、すねのすぐ外側。胃腸機能を整え、“気”の産生を促す。ただし、胃酸が出過ぎる人は押さない方が良い。
この他に、頭のてっぺんにある百会(ひゃくえ)などもよく効く。
○ 最後に..
疲労や倦怠感は、日常的に誰しも感じることである。たいていの人は、充分な睡眠や休息により回復するものだが、中には全く疲れがとれず慢性化し、ついには日常生活に影響をきたしてしまうほど症状がひどくなる方もいる。
単なる疲労やだるさと慢性疲労症候群との決定的な違いは、他の随伴症状(頭痛・喉や口の痛み・目の表面痛・目の奥の痛み・筋肉痛・関節痛・口内乾燥・食欲不振・発汗・寝汗・手足のしびれ・動悸・息切れ・めまいなど)の有症率が圧倒的に高いことである。
鍼灸治療は、主訴だけでなく身体全体を総合的に診て治療していくので、このような症状が多岐にわたるものに対しては有効な治療の手立てになるのではないかと思う。